無借金経営のメリット・デメリット ~いざというときに借り入れできない?~

こんにちは。春日井市の元銀行員税理士・小野木です。

「いちど借金をすれば人生を棒に振り、最後には破滅する」というような、都市伝説的な話を聞いたことがある方もいると思います。

このように「借金=悪、ダメなもの」というイメージを何となく持たれている方も多いのではないでしょうか。

そのイメージがあるので、「無借金経営」を目指す経営者も多いですが、ほんとうに無借金経営はいいことばかりなのでしょうか?

今回は、無借金経営のメリット・デメリットについてお話ししていきます。

もくじ

借金は悪いことなのか?

メリット・デメリットのお話の前に、借金は悪いことなのか?についてお話しします。

借金のこわいところは、「借金が返せなくなって首が回らなくなる」ことでしょう。

では、なぜ首が回らなくなってしまうのでしょうか?

一番多い理由は、「身の丈に合わないお金の借り方」をしているからです。

たとえば、年収500万円のサラリーマンの方が住宅ローンを組もうと思ったとき、

  • 頭金なしで、返済期間を最長の35年間で借りる

  • 購入代金の50%の頭金があり、残りの50%を借りる

とでは、パッと見で明らかに後者の方が計画的で、返済負担が軽いといえるでしょう。

会社もこれと同じで、返済できるめどがある借金は悪ではなく、むしろ手元のお金が増えることで今後の行動に選択肢が増え、将来にプラスになります。

なにか計画や理由があって無借金経営を目指すのであればいいのですが、人から聞いた・ネットで見たからという理由で借金を嫌うというのは、とても危険かなと思います。

無借金経営のメリット

返済のプレッシャーから逃れられる

借金をすると「返済しなければならない」というプレッシャーがのしかかります。

経営が順調なときはいいですが、経営が苦しくなったときの返済は重荷になります。

無借金経営であれば、このようなプレッシャーから逃れられます。

銀行の顔色を気にしなくていい

借金が多くなればなるほど、銀行対応が増え、顔色をうかがうことが多くなりがちです。

「この先、融資してくれなかったら困る…」ということで、自社の経営方針を銀行からのアドバイスを中心に決めなければならない状況もありえます。

利息を払わなくていい

あたりまえですが、借金をすれば利息を支払います。

最近は金利が低いので、そこまで負担が大きいものではないですが、借金が増えた分だけ利息も増えていきます。

社長の個人資産が減ってしまうリスクがない

多くの場合、借入するときには代表者である社長が連帯保証人になります。

その後、会社が倒産してしまうと、連帯保証人である社長個人が返済していくことになるので、個人の資産が減ってしまうというリスクがあります。

事業承継の際、引き渡しがスムーズ

自分の会社をだれかに引き継ぐとき、借金がたくさんある状態で引き継ぐのは、後継者からすればかなりのプレッシャーになります。

また、渡す側としても申し訳ない気持ちになるでしょう。

後継者が身内におらず、これから誰かを探す場合、なかなか見つからないことも想定されます。

無借金経営のデメリット

いざというとき・ほしいときにすぐ借入できない

意外に思われるかもしれませんが、銀行は無借金の会社よりも、借金がある会社の方を信用します。

なぜかというと、銀行は審査の際、過去の実績をなによりも重視します。

融資がある先に対しては、「ちゃんと返済してくれる」という信頼があるので、緊急時でも最速で融資することができます。

これに対し、無借金の会社は融資経験がないので、「ちゃんと返済してくれる」かどうかがわからないので慎重にならざるを得ず、審査に時間がかかります。

決算書が赤字だと、最悪の場合融資を受けられないこともあります。

現金が少ないと借入しにくい

不測の事態が起きて借入れしなければならないとき、銀行は現金が少ない無借金の会社よりも、借金があって現金が多い会社に融資をしたがる傾向があります。

これは、審査のときに「流動比率」という数字を重視しているためです。

流動比率の詳しい説明は省きますが、要するに手元にお金が多いか少ないかを基準として、借金が多くても現金が多ければ流動比率は上がります。

これに対し、無借金でギリギリの資金繰りな会社の場合は流動比率は極めて低いので、最悪の場合融資を断られてしまう可能性があります。

倒産のリスクが増える

新型コロナのような不測の事態が起きて、「売上はないのに支払いはしなければならない」となったとき、手元に資金がなければ支払いができなくなり、黒字倒産という事態になりかねません。

成長スピードが鈍くなりがち

無借金経営にこだわりすぎて常にギリギリの資金繰りだと、余裕がないことから大きなビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。

借金したとしても手元資金に余裕があれば、チャンスの時にすばやく投資することができます。

資金繰りのストレスに悩まされる

資金繰りがギリギリだと経営者は常にお金のことを考えなければなりません。

新しい事業をするにしても、「お金は足りるのか」と心配になって、思い切った行動がしにくくなり、消極的になりがちです。

「実質無借金経営」をめざそう

メリット・デメリットのお話をしてきましたが、デメリットを解消するためには、借金をしたとしても「実質無借金経営」の状態にしておけばいいのです。

「実質無借金経営」とは、借金以上に手元のお金がある状態です。

たとえば、手元に200万円あるときに500万円借金すれば、「手元のお金700万円 > 借金500万円」となります。

この場合、借金より手元のお金の方が200万円多い状態なので、いいかえると借金をいつでも返済できる状態です。

このことを「実質無借金経営」といいます。

この場合、お金に困っていないときに借金をするので、手元のお金もすぐには減りません。

お金に困っていないのになんのために借りるの?と思われるかもしれません。

これは、余裕のあるときにあえて借金しておくことで、

  • 多めにお金を持つことで経営に余裕ができる

  • 余裕があるので、急に倒産することもない

  • 銀行に借入の実績を作っておくことができる

  • 借入の実績があるので、不測の事態があったとき早急に対応してくれる

と、デメリットをなくすことができます。

借金をすれば当然利息がかかりますが、最近の金利は低いので「倒産しないための保険」を割り切っておけば、そこまで大きな負担にはならないでしょう。

まとめ

無借金経営のメリット・デメリットについてお話ししました。

まとめとして、「利益が出てお金があまってあまってしょうがない」状態でない限り、無借金経営を目指すのは得策とはいえません。

余談ですが、わたしが信用金庫に勤務していたころ、多くの経営者は借金を嫌がっていました。

借金を嫌いすぎて、会社の経営が傾いたり、黒字倒産してしまった、という状況を何度も見てきました。

「はやめに借金していればこんな事態にならずにすんだのに…」と思ったこともしばしば。

もともと借金が嫌いなうえ、信金の営業マンがお金を借りてと言っても素直に聞けないきもちはわかりますが、黒字倒産してしまったら元も子もありません。

「無借金経営にこだわりすぎると、会社を危険にさらす」のは、信用金庫で学んだことのひとつです。

みなさんには「お金が足りないから経営がまわらない」という経験を絶対にしてほしくありません。

この記事が参考になればうれしいです。

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